4. 七代長谷川英信の子孫
【2】「 軽く薄い刀の弱点」と古流五本について
前述の試し斬りの件に戻すが、運が良かったのか私の門弟には試斬り愛好者も多く、毎週一回試
斬りを行っていたが、居合抜での試斬には苦労し、三か月目にやっと成功したという苦い記憶がある。
切れないと諦めかけた矢先、後に判った事だが熊本八代のイグサで出来た畳は強靭で通常の二倍の厚さがあり、簡単には切れないのであった。モスクワで中国
産の畳を試斬したが今度は切れすぎて危うく背筋を変に伸ばしてしまうところだった。ロシアの門弟に騙されたもいいところで、それこそバナナを斬るよりも簡
単な感じだった。現在日本の畳の60%が中国産の畳なのだそうだ。
軽く薄い真剣も怖い。弟子の軽く薄い真剣を借りて、一度水に付け乾燥した畳を片手で切ったのだが、スパッと斬れただけでなくまるでバネが弾ける様に撓
み、その振動が柄に伝わって手の中で暴れて飛び出す、という貴重な体験をした。特に傍系神伝流剣士達は要注意、刀は厚重ねに限る。
江戸の刀二百本を試した
清麿の兄は「命を託す刀は無い」旨を伝えている。「折れず曲がらず刃が欠けず」という特徴のある日本刀など実は骨董屋の法螺噺であって、現代ではとても作
れないと諦めていた。私が使用している現代刀も模擬刀に当たるだけで刃が欠け傷だらけ。刀匠の腕の悪さに呆れている。
しかし最近、親子三代刀匠で、遂に人間国宝に選任された江戸の刀匠吉原義人によれば、向打ち三人で鍛錬すれば刃と刃がぶつかっても刃が欠けない日本刀を
作る事ができるとのこと。兜切でも欠けない刀を作る事に成功したこの刀匠のおかげで、古伝にいう石碑切り兜切の伝えは事実であり、決して骨董屋の法螺噺で
はなかったという事に胸を撫で降ろしている。
百錬先生が兵法叢書でも明らかにしている、土佐抜刀芸家林一族が継承していた「真陰流五本」と「卍石甲二刀剣」について。
山川が捏造した「大森流」の文中で真陰流古流五本の型とは、
「上泉伊勢守信綱より林五左衛門良政一家に代々伝わり、守政先生の代に絶えた」
と記されている。土佐の窃盗武士、山川久蔵幸雄(錠八政之丞)にはこの業の解読が出来ずにこの説明を記述したのだろう。
また百錬先生も「詰合太刀打の中から見つけ出せない」と注記されている。武蔵守卍石甲二刀剣もまた途絶えたのであるが、これも山川が無くしてしまったの
だろうか・・・。
私たち易水館は門生と共に林崎居合道の伝える三十三本の詰合の研究を進め、約一年の歳月を要して目的を果たすことができた。 正統正伝居合の林崎重信の
系譜として古流五本の型をも必ず見つけ出し、門生に伝える責任を果たすことが出来そうである。
一子相伝あるのみ。
以上
平成27年10月吉日 易水館長 若浦次郎
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